・動力がエンジンなどの内燃機関からモーターなどへの電動化
・人の運転から自動運転化
この2点だけ見ると、個人が車を使うことだけを考えると大した変化に見えないかもしれません。
しかし、この変化は自動車業界のみならず、保険、交通機関までも含めた大きな変化が起こり得ます。
自動運転の概要や、問題点等についてはこちらのサイトにまとめております。
エンジンの電動化による変化について
かつて、化石燃料である石炭を用いていた蒸気機関車は姿をほぼ消しました。都心部においては電動化、つまり電車となりました。
都心部に住んでいると鉄道は電車しかないように感じますが、実際はそうではありません。
地方は線路の関係などでディーゼル車もまだまだ走っています。
日本の営業距離における電動化率は70%弱です。
東京、神奈川は電動化率100%ですが、徳島県にいたっては0%です。(日本のデッドセクション サイトより)
ここから予想できることは、どれだけ電動化が進んだとしても、地方都市などでは充電の関係などでエンジンを使った車の比率が高くなることもありえます。
船でも現在はディーゼルエンジンが主流ですし、飛行機もジェットエンジンですが、今後、これらの動力も大きく変化していくのは自動車だけではありません。そのためには、多くの充電器が必要になりますので、時間はまだまだかかるでしょう。
エンジンの電動化は車が有名ですが、本当は全てのエンジンを使った乗り物に影響が及ぶのです。
そういう意味でも、モーターを開発しているメーカーは当面は有力株だと見ることができます。当面はというのは、モーターが最終系ではないからです。別の項目でお伝えしますが、回転などで動いているものは、動かないで同じ効果を生む形に変わっていくようになります。
自動車メーカーにとってエンジンの電動化はどのような意味を持つのか
これは死活問題です。
業界人が必死に止めようとしているには理由があります。
電動化が進めば、高い日本車を買う必要がなくなるからです。
エンジンがモーターに変わることで、ギアボックスなどもシンプルにできることで、車自体の部品点数が大幅に減ります。2010年の経済産業省のデータでは約4割減ると出ていました。
エンジンは回転数が低い時には力(トルク)がないので、ギアで高回転にして進むようにします。
モーターは回転数が低い時から力(トルク)がありますので、日本のように都市部の渋滞が多いところでの止まったり進んだりが多いところでは有利です。
車の仕組みがシンプルになると壊れにくくなり、車の価格が安くなります。
シンプルになると、100年のエンジンの歴史を持つ自動車メーカーでなくても、中国などが安くて良い電気自動車を開発、販売できるようになります。
つまり、わざわざ高いエンジンの車を買う必要がなくなります。
そして、エンジンという複雑な仕組み、ギアボックスなど多くの部品メーカーの仕事がなくなります。
部品点数が減るということは、それに関わっている仕事がなくなることを意味します。
また、壊れにくくなるということは、車の整備工場もほとんどいらなくなりますし、自宅で充電できるようになれば、わざわざガソリンスタンドに行く必要もなくなります。電動化の前から、燃費向上により急速にガソリンスタンドが減っていますが、こういった整備業界もさらに縮小せざるえなくなります。以下の資料より、この30年でガソリンスタンドが半分になっていることがわかります。
EV化が進むことは国内の発電所事情も含めて考える必要はありますが環境にも良いものになります。ハイブリットカーも、エンジンとモーターを載せるといった、わざわざ複雑なものを用意していますが、このようなものは不要になります。複雑にしておけば、他社が簡単に真似できないというメリットがあります。
新しいクリーンなエンジンを開発している意図としては、他社が簡単に入ってこれない複雑な機構の仕組みを作るという部分もあります。もちろん、エンジン自体が完全になくなるということはありませんので、それも必要な技術です。
ボッシュというドイツの自動車部品メーカーが電気自動車用のプラットフォーム(共通シャーシ)の販売を行うと言う話もあります。つまり、ベースを販売するので、あとは好きなデザインの車を作ってくださいね、というような形です。
こういったメーカーが出てくることで、自動車の開発はさらに敷居が下がります。
パソコンは、自作PCというものがあるくらい、誰にでも部品さえ揃えれば作ることができます。ところが、自作自動車というのが困難なのは、部品を揃えるだけではできない部分が多いからです。その部品と部品をつなぐための「すりあわせ」という技術が必要になります。それをボッシュが出す「自動車のプラットフォーム」などを使うことで、自動車を開発する敷居が低くなります。
車の自動運転化における変化について
2023年の現時点でも、完全な自動運転はまだまだ技術的にも難しい部分があります。ただ、運転というのは基本的には単調な繰り返し作業で構成されています。飛行機の操縦も自動操縦とパイロットの操縦で組み合わせて行われるように、車の運転も当面は、人と機械による運転の両方が組み合わされた形になることが予想されます。
自動運転には、自動車技術協会(SAE)の定めたレベル0から5までのレベルがあります。詳しくはこちらをご参照ください。
実際、現在、市販されている自動運転もレベル2と言われる部分で高速道路などで使うことが想定される対応までが大半です。一部、人が運転から一時的に離れることのできるレベル3も出てきていますが、まだまだ試験的といったところです。
大半がレベル0と言われる、事故防止のための危険な時の警告や、レベル1と言われる緊急時のブレーキまでです。
ただ、この先、急速に自動運転技術は発展します。コンピューターの画像処理の速度の向上や周辺データの情報収集、5Gや6Gといった通信環境の整備も同時に進むためです。
事故が起きる直前の判断が難しい「トロッコ問題」(事故が予想されるときに、誰を犠牲にするかなど、答えが出ない問題)などもありますが、そういった状況にならないようにその手前から未然に防ぐことはできます。
殆どの交通事故は5秒前に対処すれば100%の事故が回避できるといった統計データもあるくらいです。
自動運転が進むということは、車のロボット化です。自動車メーカーもいままでのように、決まったシャーシに決まったエンジンを載せて、ボディのデザインと価格だけ変えて売ればいいという時代ではなくなってきました。
エンジンの電動化によって動力部分のコストダウンははかることができますが、ロボットとしての頭脳の部分の開発によって、車の良し悪しが決まるようになります。
かつて、車は「走る携帯電話」になったと言った経営者がいましたが、今は「走るロボット」になったと言うことができます。
どこの会社も独自に自動運転のアルゴリズムを開発するのかと思いますが、同じ道路を走るわけですからデータ部分などは協業した方がより良いものはできるでしょう。
携帯電話の基地局も、かつてはキャリアごとに独自に作っていましたが、最近、基地局のシェアの話を聞きますが、まだまだ少ないでしょう。本当は携帯電話の基地局などキャリアごとの独自性のあるものではありませんから協力した方がコスト的には良くなるはずですが、理屈ではない部分でできない部分もあるのでしょう。ただ、今後はそうはいっても、収益を出すために変わっていきます。
影響を受ける大衆車メーカーと、受けにくい独自カラーのある車メーカー
車に関わる業界ごとに未来予測をしていきます。
車を作る<自動車メーカー、部品メーカー>
→自動運転化が進んでもそれほど影響は受けないが、EV化については大きな影響を受ける
自動運転化が進んだとしても、自動車メーカーの業績にはそれほど影響は受けません。各社自動運転化技術のしのぎを削ってはいますが、大体横並びです。また、その部分についてはデンソーやボッシュなどの自動車部品メーカーが提供していく部分も大きいからです。
また、自動運転化はあくまで、現状の自動車の高機能化です。売上が落ちるとか、上がるとかその部分においてメーカーとしては完全自動運転にならない限りは変化しません。
ただし、完全自動運転(レベル5)になると話は違います。車を所有する必要はなくなっていきます。その時には現在のように大半の車が駐車場に眠っているという状態が必要なくなり、免許の有無によらず、車に乗りたい人が乗りたい時にのれるようになります。個人向けの販売台数は大きく減ります。カーシェアリング化が進むことになるからです。
つまり、車は所有して使うものから、バスや電車のように「移動するためのサービス」となります。
もちろん、趣味として所有する人や、使用頻度が高い人などは個人所有もあるでしょう。
自動車のEV化についてはメーカーも大きな影響を受けます。先に述べたように、EV化(電気自動車化)で特に影響を受けるのは、トヨタやフォルクスワーゲンのような大衆車を大量に作っているメーカーとそれにかかわる部品メーカーが顕著です。
自動車のEV化が進むとどういった影響があるかといえば、先に述べたように、部品点数が減り、故障率が下がる点が一番大きいです。
部品点数が減るということは安く作ることができ、メンテナンスがほぼ不要になっていくことが考えられるからです。
安く作ることができるということは中国などで大量生産された安くて高性能のEVが多く出回る可能性があります。
BMWやメルセデス、ポルシェ、マツダのように独自のカラーをもっている車を作っているところはトヨタやフォルクスワーゲンに比べれば影響は受けにくいです。なぜならもともと世界的なシェアが非常に小さいからです。ただ安いだけで買う人が買うのではなく、その車が欲しいところで選んでもらえるでしょう。
ただ、かつては独自カラーもあったにも関わらず、独自性がなくなり、ただ売上を落としている大衆車メーカーは今後特に苦戦することが予想されます。
もちろん、各社がEV化に舵を切らなければ、選んでもらえなくなりますので、そういう部分でどの自動車メーカーにも影響はあります。
その点、トヨタやフォルクスワーゲンなどのように規模が大きく、人件費や工場他、固定費の大きい会社はどうやっても、中国などから格安で高性能の車が販売されると太刀打ちはできません。それは、かつて、日本の電機メーカーや造船業が通った道でもあります。
ただ、なくなるわけではなく、シェアを大きく減らし、自動車以外でも収益を上げていくことになるでしょう。静岡に作っている未来都市、ウーブンシティなどが一つの例です。
安心を買いたい人は中国車がたくさん出てきてもトヨタ車などの日本車を買い続けるでしょう。ただ、それは一部の高齢者にとどまり、10年、20年すると、中国の車が日本に安く入って来てみなが使うようになることも考えられます。
車の台数ではトヨタは世界トップだが、時価総額ではテスラの四分の一
コロナ禍前の方が参考になるかと思い、2019年のデータで比較します。
2019年の自動車の世界シェア(台数ベース)は、フォルクスワーゲンが1097万台とトップで、2位にトヨタが1074万台、3位にルノー・日産・三菱自動車のグループが1015万台で、少し飛ばしますが、他の日本メーカーは7位にホンダが517万台のような形で入っています。(参考:2021年版日経業界地図より)
売上ベースになると、トヨタが1位になるのですが、トヨタの方が1台あたりの単価が高いということでしょう。
現時点では、テスラなどのEVメーカーは入っていませんし、中国メーカーも入っていません。
テスラは2020年で50万台ですから、台数的には全く届いていません。
しかし、時価総額は、2021/10時点で1兆ドル(113兆円)を超えていますので、トヨタの2421億ドル(27兆円)の約4倍です。
それだけ、世の中の期待も大きいということでしょう。
EV車(電気自動車)はまだまだに見えるかもしれません。
しかし、2021年には中国の国内の販売台数だけで300万台を超しそうな勢いがあります。
中国の政府の補助金などで台数が増えているところはありますが、今すでにこれだけの台数が販売されているということは、今後、中国から格安で性能の良いEV車が出てくることはありえます。既に中国ではEVの比率が日本やアメリカよりも高くなっています。
2040年には自動車保険会社市場が60%減少する
自動運転が普及することで、自動車保険は大きく変化します。なぜなら、交通事故の約90%が人為的ミスだからです。
また、自動運転になることで、車は「移動する手段」から、「移動するサービス」に変わります。
もちろん、自分で運転する人もいるかもしれませんが、大幅に規制されるでしょう。
それにより、自動車保険の市場は大幅に下がります。
理由は簡単です。
電車やバスに乗るときに、「電車保険」や、「バス保険」に入りますか。
普通は入らないと思います。
自動車保険もそれと同じ形になっていきます。
自動運転だとしても、事故が0にはならないにしても、機械が判断することで人よりは間違いは減ります。そのため、2040年には自動車保険市場は60%縮小するというデータを出しているところもあります。(2030年 加速する未来 P.273より)
自動車に乗ることが「移動するサービス」となったときには、60%縮小どころか、自動車保険業界自体がほぼ、なくなるでしょう。
もちろん、特殊な用途や、非常に掛け金の下がった形で他の保険と統合されて残るということはあります。
EV車が普及することで自動車修理工場は半減する
自動運転の方が無理な加速やブレーキが減るでしょうから、車も傷みにくくなるなどで寿命が延びるということもあるかもしれません。
しかし、一番影響が大きいのは、EV化です。先に述べたように部品点数が6割程度になることや、複雑な内燃機関を使わないことで故障率は下がります。
国土交通省のデータ(自動車の高度化に伴う安全確保策のあり方検討会 第2回「故障・整備データ等の収集、分析の検討状況について」2022/12/14 より)に、乗用車のEV車とそれ以外の乗用車の故障コードの検出率の比較のデータがありました。
近似されたグラフによると、EV車は初年度は0.3からはじまり、10年で0.5まで故障率があがります。ところが通常のガソリン車は初年度から0.5からはじまり、10年で0.7まで上昇していました。ただ、故障コードの検出ということですので、実際に車が動かなくなるとか、大きなものとは限りません。
故障コードの検出率と故障率の相関性は高いことが想定されますので、実際にEV車の方が故障率が半減する可能性はあります。
ただ、まだ熟成段階になってはいませんので、ガソリン車は故障率も今後変わることはありませんが、EV車についてはさらに故障率が下がっていくことが予想されます。現時点でも、既にガソリン車よりも故障率が半分程度である可能性があります。
そのことから、EV車が普及することによって、自動車の修理工場は現在のさらに半分程度でも足りる可能性があります。
従来、自動車を販売したのち、車検や整備というところで大きく儲けてきた自動車販売店も、その部分を見直さなければならなくなります。
現在は、故障の頻度は下がったにも関わらず、わざわざ、カーナビの更新データなどで更新料を数万円とっているところもあります。
ただ、実際は、サイトから地図データとコードをダウンロードして自分でセットアップできるようになっている自動車メーカーもありますので、いつまでも隠しておくことはできないかもしれません。
また、メーカーによっては、カーナビが常に最新の状態になるようなサービスを提供しているメーカーもありますが、サブスクで定額料金を支払うことで地図の更新などが常に行われるようになるでしょう。