最近、新聞などで、「ジョブ型の導入」「ジョブ型雇用に切り替える」といった言葉をよく聞くようになりました。
これがどういう意味で、そして採用される側にとってどのような影響があるのかについてお伝えいたします。
ジョブ型雇用
その語彙の説明の前に、最近のニュース記事から抜き出します。
日経新聞記事 2023/5/23 リコー、新任課長は部署最年少 ジョブ型で変わる生き方
日経新聞記事 2023/5/25 さよなら配属ガチャ 就活生、インターンもジョブ型で
もう少し前の記事には、どんな会社が「ジョブ型」を導入予定だとか、そういう記事が多かったのですが、政府からもジョブ型に対する後押しもあるようです。
この「ジョブ型雇用」という言葉を作ったのは、濱口桂一郎さんという元官僚で労働政策研究・研修機構労働政策研究所長をされている方です。
ジョブ型とは、まず最初に職務(ジョブ)があり、そこにそのジョブを遂行できるはずの人間をはめ込みます。
ジョブ型では、契約で定める職務によって賃金が決まっています。
ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機(岩波新書) 濱口桂一郎著 より抜粋
欧米での採用はこの「ジョブ型雇用」になります。
そのため、日本のように新卒がラクに就職できるというようなことはありません。なぜなら、新卒は基本的にはスキルをあまりもたないことが多いからです。
また「職務」によって給料が決まってくるので、日本のように勤続年数で給料が自然とあがっていくということもないわけです。
ジョブ型の場合は、自分でスキルを身に着けて、より給料の高い職務に就く必要があるわけです。
ただ、ジョブ型は職務を決めて採用しているわけですので、会社の方針でその職務がなくなった場合は、雇用を打ち切られるという可能性もあるわけです。ただ、だからといっても解雇事由なアメリカを除き、簡単に解雇されるようになるという意味ではありません。
メンバーシップ型雇用
濱口さんの言われているジョブ型に対応するもう一つの言葉、「メンバーシップ型雇用」という言葉があります。
職務を特定せずに採用する、多くの日本の新卒採用で行われている雇用のことです。
中途採用の場合は「何ができる」というスキルをベースに採用しますが、新卒の時には、理系や専門学校は異なりますが、文系などであれば基本的には専攻していた学科によって就職する業種が決まるということはあまりありません。
新卒採用の時に「あなたの職務は〇〇です」ということで採用はしないのです。
採用されてから、配属先が決まるというのが一般的です。
あくまで、「その会社のメンバーになる」ということだけが採用時には決まっているのです。
上に載せた、「さよなら配属ガチャ」と書かれている記事は、企業に配属先を任せるのではなく、自分の興味やスキルで配属先を決めていきたいという記事の内容です。そういう意味で「ジョブ型」と書かれているわけです。
メンバーシップ型雇用においては評価についても新入社員から評価されます。その評価についてもスキルで評価するのではなく、目に見えない「やる気」が大きな評価ポイントになっている点があります。目には見えない「やる気」を見る方法とは、「始業前の早朝から頑張っている」とか「夜遅くまで残って仕事をしている」というような仕事に対する姿勢といってもいいと思います。あと、「長年働いている」というような、皆が納得しそうな理由を使うということです。
また、職務を指定して採用しているわけではないので、会社などの組織の状況に応じて配属を変えることで採用を維持することができることも特徴の一つです。つまり、技術職で採用したけれども、営業職が人が足りなくなってきたので、営業に回されるということもありえるということです。
新卒一括採用があることで、何年かおきに、業務が変わっていくジョブローテーションがあるのも、メンバーシップ型雇用の特徴です。
ジョブ型雇用が入ってくる影響
ジョブ型雇用があたかも新しい方式で、日本も採用すべきだ、というような風潮で書かれている記事もあったりしますが、ジョブを決めて採用するジョブ型雇用自体は決して新しいものではありません。産業革命の時からあったと言えます。
メンバーシップ型雇用の方がむしろ戦後の日本で行われていた方法で新しい方法です。ジョブ型雇用のように、職務に押し込めてしまうというのが本当に良いのか、ということもあります。職務を決めずに、メンバー、つまり仲間として一緒にやっていくということだけを決めるからこそ、会社としての、組織として力を発揮できるという側面もあります。
ただ、その「メンバー」という形に合わない人がいるのも事実です。そういう人にとっては、自分のスキルで判断してもらうことで、より自分にあった組織に移ったり業務を行ったりすることもできるようになります。そういう面で、転職がしやすくなる、と書かれていることもあるのかと思います。
ジョブ型雇用を大半の企業が導入してしまう、ということはないでしょう。
年功序列(年齢や勤続年数によって役職や給料が決まる方法)は大学生に聞くとイヤだと言いますが、終身雇用(一度就職すると、通常は定年まで働くことができる形)はあった方がいいと言います。
それは無理というものです。職務を決めず、メンバーシップ型雇用で大量に採用して、会社の状況に応じてジョブローテーションをして、年数に応じて給料があがるから長く続けようと考える人が多くて、終身雇用ができているわけですから。
ただ、自分に何らかのスキルに自信があり、こういうキャリアプランで進んでいきたいと思う人は、ジョブ型を前面に出している組織や会社を選べばいいということです。
企業によっては、「ジョブ型」を人件費削減のために使うこともあるかもしれません(長く働けば給料があがるわけではないので)。
そういう意味では「ジョブ型」をどういう意図で導入しているのかを、会社説明会等で聞いてみるものいいかと思います。
古い会社だと、「ジョブ型」を導入したからといって、今までいた人の給料を下げるわけにはいかないでしょうから、新しい会社でないとなかなか導入は難しいのではないかと思います。表向きは、導入したといろいろな会社が言っていますけど先進的なことをやっていると見せたいだけという場合もあります。
企業が新卒一括採用をやっていながら、「ウチはジョブ型雇用を導入しています」っておかしいわけです。